今週の1本

« 2008年4月 | 今週の1本 トップへ | 2008年6月 »

2008年5月 アーカイブ

vol.32 『ピクニック』 by 石井清猛


5月のテーマ:休日

柔らかな午後の陽射しを照り返す池の水面に揺れるカキツバタの影を眺めながらしばらく遊歩道を上っていくと周囲は徐々に暗くなっていき、気づくとそこはクヌギやコナラなどが生い茂る武蔵野の原生林。やがて私は池に向かって軽く傾斜する地面に腰を下ろし、ひんやりとした土の温度を感じつつ、木々の梢から時おり洩れてくる陽射しに目を細める...。

私の地元練馬区の石神井公園で過ごす、そんな休日は恐らくただの白昼夢(笑)。"あったかもしれない"あるいは"あったらいいなあ"という、まあ、たぶん過去にも未来にもない、言ってみれば"幻の休日"です。
そして、私がたまにこんな白昼夢を見るようになった理由を探すとすれば、それは紛れもなくこの映画を見たせいでしょう。

休日を過ごすために田舎町を訪れたある家族の1日を描いた40分足らずの中編、ジャン・ルノワールの『ピクニック』。
こぼれ落ちてくる陽光、さざめく草木、川面を滑る手漕ぎボート、立ち並ぶオリーブ、じゃれあう母娘、おどける地元の若者、そして突然の雷雨が、次々とまるで夢のような生々しさで映し出されるこの作品は、見る者をここではないどこかで過ごす"幻の休日"へと誘うのです。

『ピクニック』は1936年に撮影されある事情で中断されたままになっていたところを、1946年にプロデューサーのピエール・ブロンベルジェの指示により、撮影済みのフィルムを編集したのちに補足説明を加えられて今見られる形となりました。
制作途中で監督の手を離れてしまった経緯から"未完"とされているものの、その底知れない映画的豊かさゆえに「ルノワールの最高傑作」に推す批評家も少なくありません。

夏のある日曜日にパリの金物商デュフールは家族を連れ、田舎へピクニックに出かける。デュフールと娘の許婚アナトールが釣りに興じる一方、妻と娘アンリエットは地元の青年2人に誘われ舟遊びへ。青年アンリは船を岸へ着けアンリエットを森へと誘う。やがて嵐の訪れと共に終わる夏の休日。そして数年後の日曜日、アンリは思い出の河畔で偶然アンリエットと再会するのだが...。

ジャン・ルノワールが『ピクニック』のロケ地としてパリ南郊の村マルロットにほど近いロワン川の畔を選んだのは、子供の頃によく別荘で遊び「そこのすべてを知りつくしていた」からだと言います。
その言葉どおり、映画ではロケーションの魅力を存分に捉えながら、加えて母と娘の間で交わされるアリを巡るやり取りなど、コミカルなディテールにも不思議なリアリティが宿っています。

とはいえ、この作品のハイライトは間違いなく娘のアンリエットを演じるシルヴィア・バタイユでしょう。洗練と野生が危うくバランスを取っているその強烈な存在感に、観客は彼女から目を離すことはできません。

そしてクライマックスは映画序盤に唐突に訪れます。
青年がレストランの鎧扉を開け放ち画面に光が満ちる瞬間と、その光に導かれるように映し出されるブランコに乗って揺れるアンリエット。
先日まで都内で催されていた展覧会のポスターにもなっていた、あのショットです。
ちなみに私はここ数ヵ月、駅でシルヴィア・バタイユを見かけるたびにその前で最低1秒は立ち止まってました。たぶん意識が飛んでたんだと思います(笑)。

『ピクニック』では映画評論家の山田宏一さんが字幕の監修をしているのですが、映画の終盤に出てくる「月曜日のように悲しい日曜日が過ぎて1年後...」という説明の字幕が美しく、深い印象を残します。

この映画で描かれた"月曜日のように悲しい日曜日"ほど、ドラマチックな思い出を持つ人は実際には少ないかもしれません。
それでもこの物語が見る者の心に迫ってくるのは、誰もがやり切れない思いを残した休日を抱えているからなのでしょうか。
ちょうど子供の頃に経験した"夏休み最後の日"のせつない記憶が、色褪せながらも消えることのないように。

─────────────────────────
『ピクニック』
出演: シルヴィア・バタイユ、ジャーヌ・マルカン他
監督、脚本: ジャン・ルノワール
撮影:クロード・ルノワール
製作年: 1936年
製作国: フランス
─────────────────────────

vol.33 『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』 by 藤田彩乃


5月のテーマ:休日

日本で5月といえばゴールデンウィークのイメージがありますが、残念ながらアメリカにはありません。少し意外ですが、祝日の数はアメリカのほうが格段に少ないんです。5月の祝日は最終月曜日のメモリアルデーのみ。戦没者を追悼する日です。つまり今週末は久々の3連休! 多くの人が映画館に足を運ぶことでしょう。

そんな連休を控えたアメリカで、22日『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』が公開されました。前作『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』から19年。脚本が気に入らないことを理由に出演を拒み続けてきたハリソン・フォードがついに承諾。ファンが待ちに待った公開です。

ロサンゼルスのテレビでは過去3作品はもちろん、関連番組がひっきりなしに放送されています。しっかりおさらいして、公開初日、朝一番に映画館へ向かいました。

ネタバレしては台無しになってしまうのでストーリーの詳細は伏せますが、物語の舞台は現実と同様、前作から19年が経過した1957年。第二次世界大戦が終わり、ナチスは崩壊。冷戦に突入した時代です。インディは青年マットとの出逢いをきっかけに、伝説のクリスタル・スカルを探す冒険に出発します。ナスカの地上絵のあるペルーから始まり、ニューメキシコ、イグアスの滝と各地を駆け巡るインディ。クリスタル・スカルの持つパワーを手に入れようとするソ連軍の諜報員スパルコに行く手を阻まれながら、マヤ文明の残した謎に挑みます。

諜報員のスパルコを演じるのはアカデミー賞の常連ケイト・ブランシェット。ロシア語なまりの英語での好演が光っています。正直インディの劣化は否めませんが、派手なアクションシーンは健在。相変わらず豪快に敵を車からぶっ飛ばしています。断崖絶壁でのカーチェイス、大規模な爆発、CG技術を駆使した迫力ある映像など見所は満載。ハラハラドキドキの2時間です。会話のあちこちに散りばめられたインディらしいユーモアはもちろん、インディのヘビ嫌いをネタにしたシーンもあり、きっと笑みがこぼれることでしょう。

東京ディズニーシーのアトラクション「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮」に乗ったことがある人は、「アトラクションで見たあれは、このシーンだったのか!」と別の楽しみ方もできるはず(順番が違う気もしますが)。

過去3作品の登場人物も出てきますので、忘れている人はおさらいしてから観ることをオススメします。少なくとも『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』は見たほうがいいかも。巨匠ジョン・ウィリアムズによるあのテーマ曲を聴けば、ファンでなくてもワクワクしますよね。日本公開は2008年6月21日です。お楽しみに!

─────────────────────────
『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』
監督:スティーヴン・スピルバーグ
製作総指揮:ジョージ・ルーカス
      キャスリーン・ケネディ
脚本:デヴィッド・コープ
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:ハリソン・フォード、ケイト・ブランシェットほか
製作年:2008年
製作国:アメリカ
─────────────────────────