気ままに映画評

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2007年10月 アーカイブ

『デス・プルーフ in グラインドハウス』by 藤田庸司(翻訳センタースタッフ)

DJ・タランティーノのスピード感覚


クエンティン・タランティーノの映画について考えるとき、僕はいつもクラブDJを連想する。自分の好きな曲を愛情とスキルでつなぎ合わせ、独自のグルーヴを生み出し、オーディエンスを楽しませるクラブDJ。タランティーノは映画界という巨大なクラブのDJだと思う。
「レザボア・ドッグス」、「パルプ・フィクション」、「キル・ビル」、彼は幼少の頃より見続けてきた愛すべき名画のエッセンスを巧みにミックスし、ジョーク、セックス、バイオレンスなどで味付けすることで、クールでスタイリッシュな作品を作り上げる。その名人技は3年ぶりの新作「デス・プルーフinグラインドハウス」でも健在であった。さらに今回は"スピード"という、これまでのタランティーノ映画にはなかった要素が盛り込まれ、進化さえ感じるほどだ。
作品名にある"グラインドハウス"とは70年代にアメリカで流行った、B級映画を3本立てなどで上映していた映画館のこと。劇中のファッション、音楽、セリフ、カメラワーク、役者(カート・ラッセルファンの方、スミマセン...)など、至るところに"B"へのこだわりが感じられ、その徹底振りたるやあっぱれだ。これぞ「A級の輝きを放つ、究極のB級映画」である。とはいえ、字幕翻訳者という立場からして気になった点が一つ。タランティーノ映画ではおなじみの、ダラダラとくだらない会話が続く例のシーン。流れを作るものが"会話"なだけあって、シーンを生かすも殺すも字幕翻訳者の腕にかかる。今回はイマイチ。やはり、クールに決められるのは、今のところN・T氏しかいない。

『デス・プルーフ in グラインドハウス』by 鈴木純一(2005年4月期実践コース修了)

B級映画復活プロジェクト~リアル・アクション再び


[ B級映画復活プロジェクト「グラインドハウス」 ]
クェンティン・タランティーノが脚本を書いた「トゥルー・ロマンス」にこんな場面がある。クリスチャン・スレイターが、観客の少ない寂しい映画館で千葉真一のカンフー映画3本立てを観ているシーンだ。このような映画館はアメリカでは"グラインドハウスと"呼ばれていた。"グラインドハウス"とは1960~80年代にアメリカの場末に多く存在していた映画館で、そこではアクションやホラー、カンフー映画など、猥雑でパワフルなB級映画が2本~3本立てで上映されていた。「デス・プルーフ」「プラネット・テラー」は、グラインドハウスで上映されるような映画を再現したプロジェクトである。

[ GOGO タランティーノ! お楽しみはこれからだ ]
「デス・プルーフ」は、タランティーノ作品の特徴である本筋と関係ないおしゃべりや、監督自身が好きな映画への愛情が爆発している。まずは女の子3人組が登場し、ドライブしながら会話をする。次にバーで飲みながら、彼女たちはさらに会話を続ける。物語とは関係ない会話が延々と続くのだ。そろそろ聞き飽きたと思ったところで、カート・ラッセル扮するスタントマン・マイクが現れ、恐ろしい展開に急変する。
場面は変わり、別な女の子4人組が登場する。そこでまたガールズトークが始まるのであるのだ。「またか!」と思うが、会話の中で過去の映画についてこんなセリフがある。「今の映画だとカーチェイスはCGで撮影しているが、昔はスタントマンが体を張って危険なアクションに挑戦していた」、「『バニシングIN60』は傑作だった。アンジー(アンジェリーナ・ジョリーのこと)が出ていた、つまらないリメイク版(「60セカンズ」のこと)じゃなくてね」。最近のCGまみれのアクションに不満のある映画ファンにとって、溜飲が下がる言葉だ。
そして再びスタントマン・マイクが現れ、激しいカーチェイスが始まる。ここでのカーチェイスは、先の会話にあった"CG抜きの本物のアクション"が繰り広げられるのだ。そして物語は衝撃的な"The End"を迎える。
グラインドハウス映画はタランティーノにとって格好のジャンルだったと思う。それは今まで彼が撮った作品は常に「猥雑でパワフル」だったからだ。「デス・プルーフ」はタランティーノでなければ撮れない傑作である。タランティーノには、このまま突っ走ってほしい。予定調和で終わらない過激な映画を作り続けてほしい。タランティーノがいる限り、お楽しみは終わらない!

『デス・プルーフ in グラインドハウス』by 湯原史子(2006年4月期実践コース修了)

カート・ラッセル VS スタントガール


なんとも嬉しい"「B級」温故知新映画"が公開されました。
デス・プルーフ(耐死仕様)を施した愛車で無差別殺人を繰り返す男と、その標的となってしまった女性たちの攻防が描かれた作品です。前半では主人公の1人であるスタントマン・マイクの極悪非道ぶりや、愛車のデス・プルーフたる由縁が執拗にかつ無情に描かれます。後半に入ってスタントマン・マイクは新たな標的を見つけて目的を果たそうと試みますが、今度は相手が一筋縄ではいかない女性たちだった...という展開。ストーリーも見事なまでに「B級」的な荒唐無稽さを踏襲していて、観る前からワクワクしてしまいます。
「B級」とは言っても、娯楽映画としての質は低いどころか第一級品。何といっても主演は『ポセイドン』のカート・ラッセルです。過去の栄光にすがって生きるスタントマンを、衝撃の結末にも同情の余地を残さないほど気持ち悪く演じきっています。後半の女性陣には、「キル・ビル」でユマ・サーマンのスタントを担当したゾーイ・ベル、「レント」のトレイシー・トムズが出演。アクションシーンでは惚れ惚れするようなカッコ良さを見せてくれています。最大の見所といえば、カート・ラッセルと彼女たちのカー・チェイスに尽きるのではないでしょうか。
監督カラー満載で大満足の一作となりました。ただし若干ながら残酷描写もありますのでホラー系が苦手な方には不向きかもしれません。タランティーノファンならずとも「B級」調がお好きな方ならビール片手にぜひ楽しんでもらいたい作品です。

『デス・プルーフ in グラインドハウス』by 山田裕子(2007年4月期基礎Iコース修了)

刺激的な退屈を味わおう!


「グラインドハウス」とは、1960~80年代、アメリカの至るところに存在していたという場末の映画館のこと。そこではバイオレンスとお色気が売りの安っぽいB級映画が2本立てや3本立て上映されていました。当時はきっと、映画のサウンドトラックを子守唄がわりに、多くの観客が毎夜のように大イビキをかいていたのでしょう...。そんな"「グラインドハウス」ムービー"の魅力をたっぷり教えてくれるのが、クエンティン・タランティーノ監督の「デス・プルーフinグラインドハウス」。タランティーノがスクリーンの裏でニヤけているのが目に浮かぶ、痛快な"おバカ映画"です。
バーで夜遊び中の女の子たちが、「耐死仕様(デス・プルーフ)」のスポーツカーを駆る男(カート・ラッセル)に出会い、彼女らのうちの一人が男の車に乗り込んだ時、彼の恐ろしい素顔が明らかになる...。これが物語の「はじまり」ですが、コトが起きるのは開始から1時間後!それまでは、極めてどうでもいい内容のガールズトークが延々続きます。しかし、全体のうちかなりの割合を占めている、一見ムダに見えるシーンこそが、この映画の醍醐味。そこで噛み殺したアクビの数だけ、その後に続く悲惨なショック映像、CGなしの迫力のカースタント、そして空いた口の塞がらない衝撃のラストまでを、お腹いっぱい楽しめるのです。"The End"のテロップが出るその瞬間をお楽しみに!在りし日の「グラインドハウス」にいる気分で床じゅうにポップコーンを撒き散らし、前の席をドカドカ蹴って大はしゃぎしても、誰も怒らないはずですよ(保証はしませんが)。